スペーサーってなんだ? 

 山チャンの、「ホントに治療するの?、もう暫く様子見でも良いんじゃない?」的なフリもあったのだが、そんな甘言を一蹴すると、「だよね~」と言われ、愈々5日間の放射線治療が決定した。

 5日間というのは、5回通院して都度治療を受けるというものであって、入院ではない。そこがこの治療方法の画期的な部分だ。
 以前検討した「小線源」なんちゃらという前立腺内に針を多数打ち込む手法が廃れつつある遠因でもあるようだ。

 が、その前にまだ関門が待ち構えていた。スペーサーを前立腺と直腸の間に注入するという手技?である。Spacerという意味からすると、空間を作るということだろう。
 で、山チャンの説明を聞くと、これはジェルなのだが、放射線が直腸に直接当たらないように、ガードする為の措置だという。放射線による2次災害(出血等)を防ぐ為だ。もっともな話ではあろう。

 手技(手術ではない)の日にちが決まると、その準備は、その5日前からスタートした。

 その準備内容が以下の通りだ。

 毎朝、食前に下剤を飲む。ユル便を誘発するらしい。まぁ、なくても、普通に出るんだが、どうしても飲めという。

 で、この間食べてはいけないモノとして、生野菜、乳製品、フルーツ、炭酸飲料系(ビールを含む)の4点が指定された。こんなに制約があるのか。。。と言う感想。ワラ。

 これは後から知ったのだが、手技の当日までかと思っていたこれらの食事制限が、実は放射線治療が終了する3週間後までの縛りだという。ワラ。暫くビール飲めないじゃん。。。というがっかり感。

 さて、スペーサー注入当日。少し早めについたオレがまずやったのが、トイレに入ってセルフイチジク浣腸だ。イチジクは東大指定銘柄である。浣腸なんぞ、小2の時以来だ。ワラ。

 便器に座るも、イチジクの先端が肛門に入らずに苦労する。潤滑性がないのだ。結構痛いぞ、無理にツッコもうとすると。これは工夫が必要だ。が、要は無理矢理ねじ込む以外ない。

 後で、通りすがりの看護師に聞いたのだが、食用のオリーブオイルが良いですよ、とのこと。これは試すしかないが、オリーブオイルは盲点であった。何故食用なのか。。。後で誰かに舐めて貰うために違いない。ワラ。

 なんとか浣腸液を肛門内に注入し、暫く便器に座って我慢する。三分くらい我慢しただろうか。(多分一分だろう)小気味よく浣腸液を逆噴射する。液が噴きでた後、申し訳程度に朝のウンコの残りカスがつづいた。
 
 第一関門をクリアして待合室でしばらくテレビを見ていると、医師に呼ばれた。名前は忘れたが男の先生だ。そして横にいた担当看護師の咲子(仮名)に、なんやらかにやら、この先々の治療の手順の説明を受ける。

 前回来たときに聞いていたが、キンタマと肛門の間、所謂「蟻の門渡り」という部位に、針を刺して、ジェルを前立腺と直腸の間に注入する。聞いただけでも、痛てぇだろ。ワラ。

 そして、まもなく施術室に案内された。小線源の手術をする部屋だが、今は本来の目的には使われていないようだ。
 咲子(マスクをしていて顔全体は見えないが、美形の部類だろうか、いや騙されるなー個人の感想です)に言われるがママに、股間に大穴あきの紙パンツを穿く。咲子は点滴の注射針をオレの右手にぶっ刺す。
 そして「こっちよ~」と、手術台に案内される。出産するときに妊婦が載るような、左右に足置きがあるベッドに横になった。いよいよオレも、今日出産を体験するのか?

 いや、これから何プレイが始まるのか? オラちょいとワクワクすっぞ。

 まずは、点滴が始まる。足置きに足を乗せると、出産態勢だ。咲子がオレの股間に立つ。ワラ。何をしてくれるんだ? ワクワク。

 「はーい、先生が手技するときに、タマタマが邪魔なので、どけましょうね~♡」と咲子は言うと、オレのキンタマをチンコの方へ引き上げると、何やらガムテープでキンタマの固定を始めた。アレやらコレやらテープを容赦なく貼りまくると、「じゃぁ、次はチンコです。途中でオシッコしたくなったらアレなので、チンコにホースを繋ぎますね~♡」となった。そうくるかい。

 咲子はオレのチンコと戯れつつ、なにやらゴムっぽいモノ(咲子曰く「コンドームのようなモノ」)を亀頭に被せていく。M男なら、この辺で勃起するんだろうなぁ、とか思いながら、無反応なオレのチンコ。少しは男気をみせんかい、コラぁ。と思ったが無理。

 「オシッコしたくなったら、出していいですよ~」と言われたが、果たして出るだろうか。チンコとゴムの隙間から漏れたら、ベッドが水浸しになる。いいんか?

 医者が手技室に入ってきた頃から、麻酔薬の点滴が始まった。「お酒は結構飲みますか?」「結構飲みますねぇ」「あーそうなんだぁ」というたわいもない会話。。。麻酔量をどのくらいにするか測っているらしい。
「では、始めますね」という医師の言葉と共に、股間がチクリとする。

 まぁ、麻酔が効いている感じはなかったが、それほど痛いということでもなく、淡々と作業は進む。もう一度チクリとしたが、多分ジェルの注入が始まったのだろう。
 浣腸で緩んだ肛門にプローバー?(ジェルが正しい位置に正しい量が注入できるようにするモニター)が挿入されたことは気が付かなかった。

 ものの二十分くらいだったろうか。されるがママにしていると、やがて手技は無事終了した。

 普通に歩けるんだが、咲子に移動用のコロコロベッドに乗り移るように促されると、そこからリカバリールームへと連れて行かれた。1時間ほどそこで安静にしていてください、という意味だ。オレは大丈夫なんだが、人によっては暫く朦朧となるらしい。
 咲子が、肛門から少し出血があったと言った。まぁ切れ痔の類いだろう。

 三十分くらい、そこで居眠りしただろうか。ぼうっとした感じは全くない。まだ付いていた点滴が終了した。オシッコしたくなったので、繋がれたままのホースの中に放尿した。漏れたらどうしようと思ったが、別の看護師に、しっかり繋がってますよ~、と言われて思い切った。
 カテーテルもこんな感じなのかなぁと思ったが、カテーテルは強制排尿だから、ちょっと違うのかも知れない。

 そこから二十分後、咲子がキンタマテープと亀頭ホースの取り外しにやってきた。陰毛にもしっかり張りやがったガムテープを咲子は無理矢理に剥がそうとするものだから、痛ぇのなんの。

 「イテテテ」
 「だって、しょうがないでしょ」
 「そういうもんか?」
 「。。。。」

 こうして身柄拘束から解放されたオレは、ようやく無罪放免となった。

 この日のコース、保険カバー率30%で、支払い総額は6万円なり。ジェル注入と咲子のサービスで6万。。。まあいいだろう。
 これを高いと見るか安いと見るか、それはあなた次第です。ワラ。

 帰りがけ、本郷三丁目の駅前のドラッグストアでイチジク浣腸十個入りを買い込み、帰路についた。セルフ浣腸は、この先5日間の治療日の朝のお勤めである。

 このあと股間内部に何かが挟まったほろ苦い感じと、刺された針の痛みの余韻が数日つづいた。そして、さらなる試練がオレを待ち構えていることは、このときはまだ知る由もない。